

先日、北海道大学病院・消化器外科Ⅰの市川講師と対談をおこないましたので、今回のコラムでは、その時の様子をお伝えします。
内容は、大腸癌の手術についてです。
市川:
いつも患者様のご紹介をありがとうございます。先生の内視鏡検査は、当院へお越しいただく患者様にも、「早くて痛くない」と評判です。
また、先生が「早期発見を通じて、大腸がんで亡くなる方をゼロにしたい」とお考えであることに深く感銘を受けました。
札幌、北海道、そして日本全体から、大腸がんで亡くなる方がいなくなるよう、引き続き多くの内視鏡検査の実施をお願いいたします。
近間:
そのように言って頂き光栄です。内視鏡検査で早期のがんを見つけたいと思っていますが、実際には進行した大腸がんが見つかることもあります。
大腸の壁は層状の構造をしており、がんは最も内側の粘膜層に発生します。進行に伴い、外側の層へと浸潤していきます。粘膜層から粘膜下層を越え、筋層にまで達すると「進行がん」と分類されます。
また、進行すると、がんが腸以外にも移ります。これを「転移」と呼びますね。
市川:
はい。深めの早期がんや進行がんでは、腸周囲のリンパ節への転移が認められることがあるため、腸管のみならず、リンパ節も含めて外科的に切除する必要があります。
ただし、腸から離れた臓器へ転移する「遠隔転移」がある場合は、手術による完全な切除が困難となるケースもあります。
2021年の政府統計によると、北海道におけるリンパ節転移を伴う大腸がんは16.6%、遠隔転移を伴う症例は19.7%であり、全国平均とほぼ同程度です。
手術は、がんを取りきれると判断された場合や、症状によって患者様が日常生活に支障をきたしている場合を中心に推奨されます。
近間:
がんの部位によって大腸の切除範囲は異なりますか?
市川:
はい。大腸のうち、骨盤内の肛門に近い部分を「直腸」と呼び、それ以外の部分を「結腸」と呼びますが、結腸がんでは病変の前後10cmの腸をリンパ節ごと切除します。直腸がんの場合、口側は約10cm、肛門側は2-3cmの範囲を切除します。
したがって、目安として肛門の括約筋から2cm以上離れた直腸がんまでは、括約筋を温存する手術が可能になります。更に肛門に近い場合は括約筋ごと、あるいは肛門ごとの切除を選択することが多いです。
近間:
肛門ごと切除する場合は人工肛門になるのですか?
市川:
はい。その場合は、永久的な人工肛門の造設となります。
また、腸のつなぎ目(吻合部)が肛門に近い位置にある場合は、腸壁が厚く、吻合部が離開しやすいため、一定期間その部位を安静に保つ目的で、一時的人工肛門を造設し、便の通過を迂回させる処置を行うことがあります。
近間:
手術後の後遺症について教えていただけますか?
市川:
大腸の手術に関わらず、お腹の手術では一般に癒着のリスクがあり、将来的な腸閉塞の可能性は、少なからずあります。
結腸がんの手術後は、多くの場合、後遺症は出ません。直腸がんの手術後には、便の回数が増える、急に便意が起こるなどの症状が出ることがあります。これは、便をためておく直腸の機能がなくなるためです。
肛門に近い部位の切除ほど、こうした症状が現れやすくなります。
直腸手術では肛門の温存が注目されますが、このような後遺症を考えると、将来的には直腸自体の切除が不要となるような治療方法が確立されることを期待しています。
また、直腸に密接する自律神経を傷つけないように手術を行いますが、この神経が損傷を受けると、排尿や性機能に影響が出る可能性もあります。
近間:
理解が深まりました。ところで、開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援下手術にはどのような違いがあるのですか?
市川:
開腹手術は、お腹を約20cmほど切開して直接手術を行う方法です。癒着が強い場合や病変が大きい場合などに適しており、手術時間も比較的短く、手先の感覚をフルに使える点が特徴です。
腹腔鏡手術やロボット支援下手術では、カメラを使ってお腹の中を確認しながら、小さな傷口から鉗子と呼ばれる器具を挿入して手術を行います。
傷が小さいため痛みが少なく、体への負担も軽く、術後の回復も早いことが期待されます。カメラのズーム機能を活かして、精密な手術も可能です。また術後の癒着も少ないです。
ただし、癌の根治性については、開腹手術との成績に差はないとされています。
通常の腹腔鏡手術は、人の手で器具を操作しますが、ロボット支援下手術では、先端が自由に曲がる鉗子をロボットが操る形で行います。コックピットのような操作ブースから外科医がロボットを操縦し、通常の腹腔鏡より繊細な動きを実現します。
ロボット手術はまだ発展段階にあり、すべての症例で有利とは限りませんが、経験豊富な外科医による施術では、安全性や根治性の向上の可能性が報告されています。
手術時間が長い、触覚が無いなどの課題もあり、病状や体の状態に応じて最適な方法を選択することが重要です。
近間:
ありがとうございます。最後にまとめをお願いします。
市川:
私たちは、患者様お一人お一人に対して、その時点で最も適切な治療をご提供できるよう、日々取り組んでおります。今後も機能の温存を重視し、合併症なく、再発の少ない安全な手術を目指して努力を続けてまいります。本日はありがとうございました。
近間:
ありがとうございました。
がんで亡くなる人をゼロにしたい
早期発見できれば完治できる可能性が高いと言われる胃がん・大腸がん。それなのにがんで亡くなる方が年々増えています。1人でも多くの方に検査を受けていただくことで、がんで亡くなってしまう方を減らせるはず。胃がんや大腸がんで亡くなる方を、本当に・・ゼロにしたいと思っているのです。大腸内視鏡検査で辛い思いをしたことがある人も、初めて検査を受けられる方も安心して当院に来ていただければと思います。まずはどうぞお気軽に、相談だけでもしてみてください。
【所属学会・資格】
● 日本外科学会認定医
● 内痔核4段階注射認定医
● 日本外科学会
● 日本臨床外科学会
● 日本消化器病学会
● 日本大腸肛門病学会
● 日本消化器内視鏡学会
● 日本消化器がん検診学会