大腸がんの標準治療と費用負担の軽減について
- 投稿日
- 2023.06.20
- 更新日
- 2024.08.19
人体の仕組み上、がんの発生を100%抑えることはできません。ただ、がんは患者数も多く研究が進んでいる分野であり、治療法も日々進歩しています。がんは早期発見・早期治療をすることで体への負担も費用の負担も軽く済むのですが、早期の大腸がんは自覚症状が出にくいので、がんがあっても気づかれず、かなり進行してから発見されるケースはなくなりません。
現代の医療においては、必ずしも 大腸がん=死 ではありませんから、患者さんを死なせないため医師は様々な治療を行います。大腸がんの治療方法と費用について知りたいという声がありましたので、今回はそれについてお話ししようと思います。
大腸がん治療で推奨されるのは標準治療
大腸がんの進行度(ステージ0~Ⅳ)によって、科学的根拠があり効果の高さが認められている「標準治療」があります。標準治療は、多くの医師が臨床を重ね、専門家が研究をし「これは効果がある」と認められた治療法です。逆に言えば、標準治療として認められてない治療法は「効果がない」または「まだ効果があるとは言い切れない」状態ということです。まともな医師であれば、患者さんにより長く生きてもらうために標準治療を推奨します。標準治療を行わずに民間療法を勧めたりはしません。標準治療の主な治療法として、内視鏡治療、手術治療、薬物療法(化学療法)、放射線療法などがありますが、がんの状態や体力は人それぞれですから、患者さんに合った治療法を選択することになります。
内視鏡治療
ステージ0~Ⅰで、がんが大腸粘膜の浅いところまでにとどまっている場合は開腹手術を行わなくとも内視鏡治療でがんを取りきることも可能です。肛門から内視鏡を入れて、医師はモニター画面で確認しながら手元の操作でがんを切除します。
痛みもありませんし患者さんの負担が軽いので、大腸がんがあったとしてもできる限りこの段階で発見して内視鏡治療を行いたいものです。
手術治療
ステージⅡ~Ⅲ、ステージⅠでも高度浸潤癌(粘膜の下層に深く入り込んでいる)場合には手術治療(外科手術)をします。がんの状態によっては体への負担が少ない腹腔鏡下手術を選択できる場合もあります。
端的に言うと大腸のがんのある部分を切り取って両端を繋げる手術なのですが、リンパ節転移の可能性がある場合はがんのある大腸と周りのリンパ節も切除します。直腸がんだと、排尿排便・性機能をコントロールする神経が近く、がんが進行していてやむなくこれらの神経を含めて切り取らなければならないことがあります。そうすると術後に機能障害に悩まされることもあり、日常生活に支障が出るのでそれらのケアも必要です。
がんの進行度によっては術後に抗がん剤を使用する術後補助化学療法や放射線治療を行います。
薬物療法(化学療法)
いわゆる抗がん剤を使用する療法です。抗がん剤は飲み薬と注射薬があります。
抗がん剤を使う場合は大きく分けて
1.手術でがんを取ったあと、目に見えないがん細胞もやっつけて再発防止
2.手術でがんが取り切れないので症状を緩和する
の2パターンです。
抗がん剤はがん細胞だけでなく正常な細胞にも影響してしまうため副作用が考えられます。高い効果を期待して作用の異なる抗がん剤を組み合わせるときは特に注意が必要です。よくある症状としては、吐き気、手足のしびれ、口内炎、皮膚障害、下痢や便秘、倦怠感、味覚や嗅覚の変化、脱毛、など。近年は副作用を抑える薬を併用することで症状の軽減が見られますが、強い副作用がある場合は薬を変更したり、一時的に治療を中断することもあります。
再発防止の場合は3か月~半年ほど薬物療法を行います。症状の緩和を目的とする場合は、有効な抗がん剤がある限り、また患者さんの体力・精神力・お金が続く限り、となることが多いです。
放射線療法
X線やガンマ線などの放射線をがんに当てると、がん細胞の遺伝子を破壊し、がんが増えるのを抑制します。体の外側からでも大腸のがんにまで届きます。小さいがんや取りやすい場所にあるがんなら手術で切除するのが一般的なので、放射線療法は手術できるサイズまでがんを小さくする、または手術ができないがんの痛みや出血などの症状を緩和する目的が主になります。
正常な細胞も影響を受けるので、倦怠感や食欲低下、腸管や膀胱などの炎症、白血球の減少などの副作用が見られることがあります。
緩和医療
直接的な治療ではありませんが、がんによる苦痛を和らげるためには欠かせないのが緩和医療(緩和ケア)です。医師や看護師だけでなく、内容によっては薬剤師、栄養士、理学療法士、臨床心理士など様々な職種のスタッフがサポートします。
緩和医療というと、がんが進行していよいよ治療が難しくなったときのものとしてイメージする人が多いかもしれませんが、現代ではがんと診断されたときから受けるものへと変化しています。予期せずがんだと診断された患者さんとそのご家族は、わからないことだらけの中で早急に治療を進めなければなりません。そんな人たちの不安な声を聞き、がんによる痛みや治療の副作用などの様々な苦痛を和らげるのも緩和医療です。
大腸がんの治療にかかる費用について
大腸がんの治療費は病状によって異なりますが、年間自己負担額が80万円~160万円ほどだそうです(平成22~23年の調査結果より)。高額療養費制度を適用することで実際の支払額を減らすこともできますが、入院中の食事代や差額ベッド代、入院生活に必要な日用品、保険のきかない治療などはすべて自己負担になるので大変です。治療が長期にわたると金銭面で不安を感じる人が多いので、これらの費用も考えて民間の医療保険の加入も検討すると、いざというときには安心かもしれません。
医療費の費用負担を減らすための制度
日本は保険制度が整っており、医療費の負担を軽減するよう制度も設けられてます。
・高額療養費制度…ひと月の医療費の自己負担額が限度額を超えた場合に超過分は払い戻されます。あらかじめ限度額適用認定証を発行してもらい、医療機関に提示することで窓口での支払いを自己負担限度額内に抑えることができます。なお、直近の12カ月間に3回以上高額療養費の支給を受けている場合は、その月の負担の上限額が引き下がります。
・高額医療費貸付制度…ひと月の医療費の自己負担額が自己負担限度額を超えてしまう場合に、高額療養費支給見込み額の8割相当を無利子で借りることができます。
・高額医療・高額介護合算療養費制度…医療保険・介護保険の自己負担額の合算が基準額を超えた場合、超過分の払い戻しを受けられます。
・医療費控除…同一年に自身または配偶者・その他親族のために支払った医療費のうち、一定金額分の所得控除を受けられます(確定申告が必要です)。
・傷病手当金…傷病の療養のために就業できない場合は公的健康保険から傷病手当金が支給されます。
・生活福祉資金貸付制度…無利子または低金利で、生活再建に必要な生活費等の貸付を受けられます。
・生活保護制度…資産がなく、働くことも困難になった人のために、生活の困窮の程度に応じて必要な保護を行う制度です。
・障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金)…生活や仕事などが制限される障害を負った場合に、認定された障害の等級に応じて、一定額の年金を受給できます。
・身体障害者手帳…各自治体が認定基準に該当すると認めた場合に手帳が交付され、障害福祉サービス等が受けられるほか、公共料金、交通機関の旅客運賃、公共施設の利用料金の割引、各種税の減免等を受けることができます。
いざというときはこれらの制度をフルに活用していただきたいと思いますが、あらゆる病はなるべく早期の状態で見つけて根治を目指すのが最も効率的です。
がんは大腸内視鏡検査で早期発見すれば負担も軽い
手術でがんが取り切れない場合は、残念ながら、どんなに高額の抗がん剤を使ったとしても根治することはまずありません。できることは1日でも長く生きるための延命措置です。
大腸がんは検査により見つけやすいがんですから、進行しない早期のうちに取り切ることが可能です。ただ、進行しないと自覚症状が出にくいがんなので、症状がなくとも健康診断として定期的に大腸内視鏡検査を受けていただきたいと思います。
まずはお気軽にご相談ください。
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