苦痛が少ない胃カメラ検査(胃内視鏡検査)と病院の選び方
- 投稿日
- 2024.10.30
- 更新日
- 2024.10.30
いつも当院のコラムをお読みいただきありがとうございます。
最近はインターネットで「苦痛が少ない(痛くない)胃カメラ」など検索して当院に辿り着いた患者さんもいらっしゃるようで、必要な人のところに必要な情報が届いているんだなとうれしく思います。
前回は胃カメラ検査(胃内視鏡検査)についてご説明いたしましたので、今回は苦痛が少ない胃カメラ検査(胃内視鏡検査)とはどういうものか、また病院・クリニックの選び方についてお話したいと思います。
胃カメラ(胃内視鏡検査)が敬遠されてきた理由
「胃内視鏡検査が苦手」という患者さんは、内視鏡を挿入する際にえづいてしまう(オエッとなる)というのが理由でしょう。
これは嘔吐反射と言って、内視鏡が喉を通る際にどうしても舌の奥の部分を刺激して起こってしまうもので、人体の正常な反応です。
経口(口から)の内視鏡検査の場合、咽頭麻酔をするので痛みや苦痛は和らぐはずなのですが、緊張や不安から敏感な状態になり普段よりえづきやすくなってしまうことがあります。
嘔吐反射の強度は個人差がありますから、苦しすぎて挿入が困難であると感じる方は、無理せず経鼻(鼻から)の内視鏡検査や、鎮静剤の併用を検討すると良いでしょう。
苦痛の少ない経鼻の内視鏡検査
当院で推奨しているのは経鼻(鼻から)の内視鏡検査です。
胃カメラ経験者から「鼻からの方が楽だよ」と聞いたことがある人も多いと思いますが、この理由は、嘔吐反射が起きるポイントを刺激しにくくなるからです。しかし、過去に経鼻の内視鏡検査をされて「鼻から入れたのにオエッとなった!話が違う!」と思った方もいるのではないでしょうか。
経口の場合は、嘔吐反射が起こりやすいポイントを2カ所通るのですが、経鼻の場合は奥の1カ所だけで済む分、苦しさが軽減されます。ただし内視鏡が喉を通るルート的にポイントを完全に回避できるわけではないので、やはり嘔吐反射が起こる人は起こってしまうのです。
しかし、私はこれまでの経験から、挿入の仕方や呼吸方法によってこの反射を起こりにくくできると知っています。当院の看護師ならこの方法がわかっているので、検査中は患者さんを落ち着かせ、正しい呼吸法を促します。医師は患者さんの呼吸に合わせて内視鏡をうまく挿入します。すると苦しくなりにくいんですね。この点が当院の苦痛の少ない検査へのこだわりでもあります。
鎮静剤を併用した胃カメラ検査(胃内視鏡検査)
当院では希望される方に鎮静剤を用いた胃内視鏡検査も行っています。
鼻腔内が狭いため経鼻では痛くて挿入できない場合や、嘔吐反射が激しい体質である、恐怖心が強くて検査が困難である場合に、鎮静剤併用で経口の胃内視鏡検査を選択します。最近は初診の段階で3割くらいの方が鎮静剤併用を希望されますね。
ちなみに、検査で使用する鎮静剤を全身麻酔と混同している方もいますが、これらは別のものです。全身麻酔は大規模な手術や外科手術に使われるもので、患者さんは完全に意識を失うので呼吸管理が必要です。
鎮静剤は意識を失うことなく短時間眠ったようになるだけなので、患者さんは自発的に呼吸ができますし、強すぎる薬は使用しないので目覚めもよいです。鎮静剤を使いたいけど不安のある方は初診の際にご相談ください。病院やクリニックによっては鎮静剤使用に対応していない場合があるので、希望される方は事前に施設に確認したほうが良いでしょう。
鎮静剤併用の際の注意点
胃内視鏡検査が苦手な方にとって、眠っている間に終わる鎮静剤併用の検査はありがたいことです。ただし、鎮静剤を使用する際には注意点もあります。
まずは、検査終了後に目が覚めるまで当院では1時間ほど横になって休むことになりますから、充分な時間を確保して検査にお越しいただく必要があります。
さらに、検査当日は車やバイク、自転車の運転はしてはいけませんので、帰りは公共交通機関やタクシーを利用するか、ご家族の方に迎えて来ていただかなければなりません。
当院は札幌駅近にあるので札幌市内・市外ともに比較的アクセスに便利かと思いますが、遠方で検査を検討されている方は、そういった面も考慮して病院やクリニックをお選びください。
丸1日休みが取れず、検査後すぐに仕事に戻りたい方は、鎮静剤は使用せず、検査が上手な医師のいる病院やクリニックにて、経鼻の胃内視鏡検査をすることをおすすめします。
検査の苦痛が少ない病院・クリニックの選び方
はっきり申し上げて、検査の苦痛が少ない病院やクリニックの選び方として、その施設が「苦痛が少ない検査を目指しているかどうか」が重要であると私は考えます。皆さんは「そんなこと、当たり前に考えてくれてるんじゃないの?」と思うかもしれません。
もちろん、どの施設も内視鏡を挿入する前にはきちんと喉の麻酔をします。看護師さんは優しく背中をさすってくれますし、患者さんの希望に沿って可能であれば経鼻の内視鏡検査や鎮静剤の併用の選択もさせてくれるでしょう。
しかし、その先を目指す医師はまだまだ少ないと感じます。多くの医師や看護師が、検査の目的は疾患を見つけて治療することであり、検査時の苦痛は我慢してもらうしかないという考えなのではないかと思えて仕方ないのです。
名医と呼ばれる人たちは、多くの知識と経験とよい目を持ち、治療の腕も確かです。それは尊敬すべき部分です。しかし彼らが検査を行っている現場に立ち会った際に「患者さんが苦しそうだな」「その挿入の仕方は痛そうだな」と感じたのは一度や二度ばかりではありません。
とはいえ、彼らには彼らなりの立場や役割がありますから、検査に神経を配るよりもっと世界を変えるような治療法を発見したり、誰にもできない手術をこなすなどの方向に力を発揮したほうがいい、ということもあるかもしれませんね。そういうときのために、私のような市井の内視鏡医がいるのですから。
皆さんもそれぞれ、ご自身の価値観や大切にしたいものを守りながら病院やクリニックを選んでいただきたいと思います。
命を救うために、苦痛を減らして気軽に内視鏡検査を受けてもらいたい
私は、これまで多くの検査を行ってきた中で、患者さんが苦痛に感じるポイントを学習し、それを回避する安全な道筋を描きながら内視鏡を操作するように心がけています。
当院で検査を受けた患者さんがネットに口コミを書いてくださることもあり、「痛くなかった!」「苦しくなかった!」などの喜びのコメントを目にすると私もうれしくなります。
当院に転職してきた看護師も、私の検査する姿と患者さんの反応を見て「内視鏡の挿入方法で患者さんの苦痛を軽減できるとは知らなかった」と言います。おそらく、私のような内視鏡マニアの医師はそうそういないのでしょう。
そんな私でも、例えば大腸内視鏡検査で難しい大腸の患者さんに対して苦労することもあります。開腹手術歴があって腸に癒着が見られたり、小柄な女性で腸が細く、難しい形をしている患者さんなどは、どんなに細心の注意を払っても痛みが出てしまうことがあるからです。
そのような方は自覚もあるようで、検査の前に「私の腸は難しいらしいです」と申告していただいたり、当たり前に痛みを我慢してくれますが、私としては「痛い思いをさせてごめんなさい」という気持ちになります。まだまだ自己研鑽が必要ですね。
検査が苦痛なく安心して受けられれば、もっと気軽に検査を受けてくれるだろうし、放っておけば命が危ないがんも早期の段階で治療できる確率が上がります。検査のハードルを下げることで多くの人を助けることができるのです。そう考えるとさらに内視鏡検査の研究に熱が入ります。